こすなの読んだもの

読んだ本の備忘録

『屍人荘の殺人』今村昌弘

 

あらすじ:大学のミステリ愛好家のメンバーである明智恭介と葉村譲は、”探偵少女”と呼ばれる剣崎比留子と共に映画研究部の夏合宿へと参加を決める。その合宿は事前に開催中止を求める脅迫状が届いていた曰くつきのものだった。

どこかひりついた空気を残しながらも、BBQや肝試しといった定番イベントを楽しんでいく面々。しかし肝試しの最中、誰も予想だにしなかったとんでもない事態によってメンバーはペンションへの立てこもりを余儀なくされ……

 

※ネタバレです!↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明智恭介のこと以外何も考えられねえ…………………………

冒頭のほのぼのシーンを読んだら誰もが「明智が探偵ポジで葉村はそれに振り回される助手役なんだろうな」って思うじゃん?ミステリ慣れしてる人ほどそう感じるよね。そんな先入観を根本からひっくり返してくる展開にただただ脱帽。

言ってしまえば明智の死って事件の本筋には全く関係ないしメタ的には『不必要な死』なんですよね。それでもただ単に盛り上げるための舞台装置として組み込んじゃう作者の意地の悪さがすごいと思うよ。(めちゃくちゃ褒めてます)

『俺のホームズ』って一文エモすぎる……ゾンビ明智のシーンをライヘンバッハになぞらえてるのも無理。蘇ったホームズを崖下に突き落とせないワトソン……

ラスト数ページまで明智はなんらかの方法で生きていると信じて疑ってなかったんですよ。たとえば撮影場所だった廃墟でたまたま犯人グループの使ってた解毒剤の注射器が指にちくりとしちゃってたとか、まあなんかそんな感じの。だってあんなあっさり死ぬとか信じたくないじゃんんんん…………

下松さんもめっちゃ好きだったので悲しい。大槻唯ちゃんのビジュアルで脳内再生してた。

 

閑話休題

大学のミステリ愛好会、夏合宿、名探偵の美少女、クローズド・サークル。これでもかとばかりベタベタな要素を詰め込んでるかと思いきやあまりに斬新すぎるクローズドサークルで絶句しました。前情報なしで読んでたので本当に度肝抜かれた。ゾンビと殺人鬼の両方に怯えなきゃいけないとか死んでも御免だ……

何が面白いってゾンビがただクローズドサークルを形成するための道具ではなく事件にがっつり絡んできてるってことですよね。雪とか嵐とかが原因のものだとこうはいかない。エレベーターのトリックすっごい良かったな……

 

逆にちょっと「あれ?」って思ったのは動機の弱さなんだけど、静原さんは昔から沙知先輩のことが恋愛的な意味で好きだったのかなって考えたら納得できました。手足縛ったままゾンビの群れの中に放り出すって最高の復讐だな。私は途中まで葉村が多重人格者でその別人格が犯人じゃないかなと思ってました(葉村の震災のトラウマに何か秘密があるんじゃないかと……)

あと機関の伏線が全く回収されなくてええーーーー!?ってなったけどまあこれ絶対続編出るやつだもんな。比留子と葉村ペアでシリーズ化すんのかな……どうにかして明智さん復帰しねえかな……(諦めきれない)

もしくじ引きで4番目以降を引いてたら、もしペアがおとなしい静原さんじゃなく、たとえば男勝りな高木さんだったら。より早くペンションに引き返すことができるからおそらく彼は助かっていた。もっと遡って、明智と葉村が出会ってなかったら。助手という存在に比留子が思い至ることもなく、彼らはペンションに行くこともなかった。IFを挙げればキリがない。もう取り返しはつかないけれど。

個人的に面白いなって思ったのが名前とキャラクターの関連付けですね。最初の人物紹介ページに頻繁に戻っちゃうのあるある。

 

本当に面白かったし各所で絶賛されてるのも納得の出来なんだけれども、それはそれとして明智がしんどいのでもう二度と読みたくねえ!